研究概要 |
本研究はまず,非線形複素誘電率の周波数スペクトルを高精度に測定する装置の開発から出発した。歪を最小限に抑えた正弦電界を印加し,分極応答をサンプリング後AD変換し,これにデジタルフ-リエ変換を加えて基本波及び高調波成分を分離し,線形及び非線形誘電率を得るものである。その結果線形応答に対し10^<ー4>以上の精度で非線形応答を得ることが出来,非線形複素誘電率の高精度測定が可能となった。 本装置を用い,(1)シアン化ビニリデン共重合体,(2)ポリ酢酸ビニ-ル,(3)イオン導電性高分子について実験を行い,以下の知見を得た。(1)シアン化ビニリデンと酢酸ビニルを初めとする数種類のコモノマ-の共重合体について,3次の非線形誘電率がε_3^*=Δε_3/(1+iωτ_3)^3型の周波数スペクトルを示すことを見いだし,線形及び非線形の緩和強度Δε_1,Δε_3の値から,本共重合体のセグメント運動が10ー30個のモノマ-を単位として協同的に行われていることがわかった。(2)極性高分子の代表として誘電緩和が詳しく研究されてきたポリ酢酸ビニルは,通常の高分子に共通の小さな非線形誘電性しか示さないが,今回開発した高精度測定装置により測定が可能となった。その結果3次の非線形誘電率には,電歪効果による形状変化の寄与が混入するが,これを差し引いた本来の非線形誘電率はシアン化ビニリデン共重合体と同様のスペクトルを示し,セグメントを構成する等価双極子を評価出来た。(3)ポリエチレンオキシドをはじめとするイオン導電性高分子について同様の測定を行うと,実部と虚部を入れ替え周波数を乗ずるだけで非線形導電スペクトルが得られ,キャリヤ-のホッピング距離の評価や誘電分極を伴う導電機構に関する情報が得られた。 以上の結果から,非線形誘電スペクトロスコピ-が,高分子のダイナミクスや微視的相互作用の研究に有力な手段となることが明らかとなった。
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