(1)酸素輸送担体の合成と評価: 液膜による酸素富化空気の製造にとって最も重要なのは高性能な担体の探索である。本年度はCo(salpr)とCo(saltmen)の合成を行った。Co(salpr)は該当するアミノ酸が市販されているので、合成手順も簡単で、高い収率で得られた。この担体を各種の溶媒に溶かして収着平衡関係を調べた。窒素に対して酸素の収着が大きく、酸素の担体として有効であることが判明した。Co(saltmen)はジニトロブタンのLiAH_4による還元過程に問題があったらしく、生成物は担体としての機能を全く示さなかった。現在、オ-トクレ-ブでの水素ガスによる還元を検討している。 (2)液膜による酸素富化空気の製造: 一部仕様変更した現有のガス透過率測定装置を中心とする実験系を組み上げた。この装置を用いて、各種の溶媒に希釈したCo(salpr)を多孔質ナイロン膜に含浸させて透過実験を行った。空気を原料とした場合に実験初期の透過ガス酸素含有量が最も高かったのはジメチルスルフォキシド(DMSO)とジメチルアセトアミドの1:1混合液を希釈剤とした場合で、最高79%の酸素含有量であった。ただ、担体の劣化が問題で、2時間後には70%まで下がり、その後、溶媒の蒸発による短絡が観測された。最も安定であったのはDMSOとブチロラクタンの1:1混合物の場合で、酸素濃度は50%程度であったが、2時間では殆ど劣化が認められなかった。 原料の酸素分圧および担体濃度をかえて実験した場合、この担体は酸素と1-1錯体を形成し、ミカエルズ-メンテンタイプの挙動を示すことが判明し、その平衡定数および拡散係数を決定できた。 今後、他の有望な担体の合成と、溶媒との最適な組み合わせの探索、二酸化炭素や水蒸気の影響を含めた不可逆酸化機構の解明などを進めて、液膜による酸素富化空気の製造プロセスの可能性を探る。
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