研究概要 |
水中に存在するタンパク質は分離精製過程や化学的,酵素的修飾を受ける際に異相を発現させることがある.この現象が,生化学物質の分離や生化学反応を実施する上にどのような影響を及ぼすか実験的検討を行ったところ以下のような知見を得た. 1.分離工学的観点からのコアセルベ-ション: ゼラチンーNa_2SO_4ー水コアセルベ-ション系にタンパク質,核酸関連物質,糖類をそれぞれ添加し,コアセルベ-ト,平衡両相への分配実験を行ったところ,分配傾向が物質により異なることが分かった. 2.ペプチドの高分子化反応: 大豆タンパク質を処理して得られた物質をαーキモトリプシンで修飾する際,反応の進行に従い,一旦低分子化した後高分子化すること,高分子化とともに反応液の非ニュ-トン性が著しくなることが分かった. 3.コアセルベ-ションの生化学反応への利用: 1.で得た知見を参考に,阻害反応を示す生成物を反応系より分離する操作が有効であるセルロ-スの加水分解反応をゼラチンーNa_2SO_4ー水コアセルベ-ション系において行った.セルラ-ゼはコアセルベ-ト相に高濃度に分配されるが,セロビオ-ス,グルコ-スはほとんど同濃度で両相に存在していた.撹拌槽において一定時間ごとに平衡相を入れ換える半回分加水分解反応を行ったところ,高い反応率まで到達できた. 4.タンパク質の限外濾過における共存塩の影響: 撹拌槽型限外濾過器において硫酸アンモニウムが共存するパパイン水溶液の限外濾過実験を行った.液本体におけるパパイン濃度が溶解度より低く,共存硫酸アンモニウム濃度による粘度の変化が小さくても,限外濾過特性は変化した.物質移動係数とゲル層表面濃度から,塩濃度により溶解度以下でも凝集の程度が異なることが分かった.
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