平成2年度は主として乳化型液膜によるパラジウムの抽出について検討した結果、以下の知見が得られた。 1.逆抽出機構 前年度に得られた逆抽出速度の測定結果に基づき、逆抽出機構について考察した。まず、逆抽出速度に及ぼす各濃度依存性について検討した結果、逆抽出試薬であるチオ尿素濃度およびパラジウム錯体濃度に比例するが塩化物イオン濃度には依存しないことがわかった。またキャリア-として用いたジオクチルモノチオリン酸濃度と共に逆抽出速度も増加するという結果が得られた。これらのことより、有機相中のパラジウム錯体組成の変化(平衡関係)が逆抽出過程に重要な役割を演じていることが推察された。 2.液膜分離 キャリア-としてジオクチルモノチオリン酸、界面活性剤としてグルタミン酸ジオレイルエステルリビト-ル、逆抽出液としてチオ尿素の過塩素酸水溶液を用いて(W/O)エマルションを調製し、これによるパラジウムの抽出を試みた。その結果、ある条件下では10分後に95%のパラジウムが内水相に抽出されることがわかった。抽出はパラジウムに関して擬1次過程で進行することが明らかになったので、このみかけの抽出速度定数を求めた。抽出速度定数に及ぼす各濃度依存性を検討したところ、チオ尿素に1次、水素イオン濃度にー1次、キャリア-濃度に2次に比例することがわかった。これより、逆抽出過程が律速となっている可能性が大きいことが推察されたが、詳細な膜分離機構を解明するには至らず、今後の検討課題として残された。
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