研究概要 |
土壌細菌Agrobacterium rhizogenesは,植物細胞に感染して形質転換を引起し毛状根を誘発させる。毛状根は,通常の根組織とは異なり植物ホルモン無添加培地でも旺盛な増殖を示すと同時に,二次代謝産物含量が親植物の根と同じレベルであるという特賞を有している。本研究では,種々の植物より毛状根の誘導を試み,得られた毛状根の増殖特性の解析ならびに培養システムの構築など,培養工学的観点からの検討を行い,以下のような知見を得た。 1.現在までに,ニンジン,西洋ワサビ,パックブン,ビ-トなどから毛状根の誘導に成功した。特にパックブンの毛状根では,医療用酵素として有用なパ-オキシダ-ゼの活性が高く,親植物より約5倍高い酵素活性を示した。また,ビ-ト毛状根でもベタシアニン系の赤色色素を親植物異常のレベルで含有することが認められた。今後,これら毛状根の培養条件等を詳しく検討する予定である。 2.毛状根の育成速度式を提案した。すなわち,毛状根の先端部に想定した生長点の分枝回数,伸長速度および減衰度等に基づいて,‘毛状根の増殖速度を表したところ,種々の毛状根培養の増殖経過を評価することが可能となった。また,毛状根の培養に際して認められる培地の電気伝導度低下は,培地中の主要無機イオン(カリウム,アンモニウム,硝酸)の消費の起因しており,電気伝導度の測定によりこれらのイオンのモニタリングが可能となった。 3.毛状根の培養に適したバイオリアクタ-を種々検討したところ,タ-ビン型培養槽等で良好な培養成績が得られた。さらに,毛状根の増殖速度は細胞濃度と酸素移動容量係数の比に比例することが認められ,効率的な毛状根培養を達成する上で,バイオリアクタ-の酸素移動容量係数が重要なパラメ-タであった。
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