本年度の研究計画では、イネ、麦、ダイズの数カ所の育成地に的を絞って、育種システムに関する実態調査および熟練育種家の経験とカンについて調査することを最重点にし、その他の試験地や育種家あるいは立毛検討会などにおいて情報の交流方法について調査すること、および複雑な情報の論理的記述方法や記述可能性などについて検討することを目的にしていた。これに対して、 1.イネ、麦およびダイズの育種試験地を訪問して育種家から取材した結果、育種家のカンを構成する要因として、(1)各地域の自然環境、社会経済的条件、および普及品種の現状などを考慮した地域適性の評価、(2)個体選抜などで多数の個体を迅速に評価するために感触などによる簡易測定法、(3)重要形質間の遺伝様式に関する知識および経験、(4)育種目標からはずれたものに対する柔軟な評価、(5)思いもよらない違いを発見する観察眼、などが重要な意味を持っていることがわかった。 2.育種家のカンはこれらの要因についての知識や技術を用いた総合評価であり、その内容を詳細に記録することの可能性についてはまだ議論の余地があり、知識や情報に関する哲学的な面からの検討も必要である。 3.一方、メモ情報を集積することで、育種家のカンの概略を表現し伝達することは可能であると思われる。 4.各地試験場や民間の栽培研究者から、育種目標や育種家のカンについて栽培方法や技術との関連で記録すべきであるとの示唆を受け、今後、検討するつもりである。
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