研究概要 |
オオムギにおける受精競争の研究は極めて少ない。本研究では,受精競争遺伝子(Gaー2)が第3染色体の長腕末端部に座乗するエステラ-ゼ同位酵素遺伝子と連鎖することを利用して,この同位酵素遺伝子型の分離の歪から受精競争を認識した。 1.Gaー2遺伝子による分離の歪は,栽培年次や受精時の温度,日長などによって大きく変動しない。また,細胞質や遺伝的背景の影響も少なく,Gaー2遺伝子の分離の歪に対する作用は安定していた。 2.正逆戻し交雑の雑種についての分離の歪を調べた結果,受精競争はGaー2遺伝子をもつ花粉が一方的に受精することが明らかになった。 3.分離の歪の認められた組合せのF_1花粉を1粒ずつ受粉しても分離の歪がみられることから,この分離の歪は狭義の受精競争によるものではなく,Gaー2 gaー2ヘテロ接合体上にできたgaー2花粉が受精しないことによると考えた。 4.Gaー2遺伝子座における地理的分化については明瞭な遺伝子の分布の規則性が認められた。すなわち,北インド以東の南アジアと東アジアの地域でのみGaー2遺伝子がみられ,その他の地域ではすべてgaー2遺伝子が分布していた。 5.近縁野生種については,既にGaー2遺伝子座での遺伝的分化が認められた。このことから,gaー2遺伝子をもつ野生種から栽培種が生じ,北インドで再び復帰突然変異によってGaー2型が分化したと考えた。 6.検定交雑によって得た約500品種のGaー2遺伝子に関する情報は,エステラ-ゼ同位酵素遺伝子型とともにデ-タベ-スとして構築した。
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