窒素の同化効率を律速している硝酸還元過程を遺伝的に解明することは窒素同化効率の改良にとって極め重要である。その第一段階として硝酸還元酵素(NR)欠失突然変異体をイネ幼植物のM_2集団より選抜しようとした。 幼植物をNo^-_3のみを窒素原とする水耕液で培養し、播種後15日目に窒素欠症状を呈した個体を選抜した(一次検定)・その後選抜個体のNo^-_3吸収量を求め、直ちに全個体を土耕栽培し、播種後35日〜60日目に葉身のNR活性を測定した。それらの結果よりNo^-_3吸収量またはNR活性の低い(正常型の50%以下)個体を選抜(二次検定)し、さらにその後代におけるNo^-_3吸収量、NR活性及び塩素酸カリウム抵抗性も調べた。 NR欠失突然変異体を得るための一次及び二次検定を行ったところ、全供試幼植物(84000個体)の0.69%、即ち576個体が窒素欠症状を示し、そのうち203個体がNo^-_3吸収欠失型と做された。しかし吸収欠失型の殆どが枯死した。さらに全供試個体の0.06%に当たる58個体がNR欠失型と做された。つぎに、M_2世代でNR欠失型と做され、かつ種子が得られた系統のM_3世代におけるNo^-_3吸収量及びNR活性を調べたところ、NR827を除く全ての系統ではNo^-_3吸収量、NR活性とも正常であった。NR827のNo^-_3吸収量は原品種とほぼ同様であったが、系統ではNo^-_3吸収量、NR活性ともに正常であった。NR827のNo^-_3吸収量は原品種とほぼ同様であったNR活性は約50%であり、塩素酸カリウム抵抗性も大きかった。またNR827の葉色は淡黄緑であった。イネ以外の植物で発見されているNR欠失型の全てがNR活性を殆ど示さないのに対し、本実験で得られたNR827は正常型の約半分のNR活性を示し、従来のNR欠失型とは異なるNRマイナス型ということが出来る。このようなNRマイナス型は窒素同化効率の遺伝的改良にとって重要な知見を提供すると考えられるので、今後NR827の遺伝解析や生化学的特性の解明を進めていく計画である。
|