研究概要 |
多くの高等植物は硝酸(NO^-_3)を主要な窒素源として利用している.硝酸同化系の初発酵素である硝酸還元酵素(NR)は硝酸同化系を律速しており,NRの機能や構造の解明はイネをはじめとする作物の硝酸利用効率を改良する上で重要である.本実験では,イネのNR欠失突然変異系統M819及びその野生型である農林8号におけるNRの機能及び構造を解析すると共に,塩素酸カリウム抵抗性の遺伝について調べた. 人工気象器内で水耕培養したM819及び農林8号幼植物のNADHーNR,NADPHーNR及びNiR(亜硝酸還元酵素)活性を測定し,さらにNRを構成する3領域(FAD,ヘム及びモリブデンコファクタ-(MoーCo))いずれの部分に変異が起きているかを明らかにするためにMVーNR,FMNH_2ーNR及びBPBーNRの活性を調べると共に,MoーCoを有するキサンチンデヒドロゲナ-ゼ(XDH)活性をポリアクリルアミドゲル電気泳動法により調べた.またM819x農林8号のF_2幼植物を10^<-4>M塩素酸カリュウム溶液で14日間育て,茎葉における塩素酸カリウム障害の程度を調べ,塩素酸カリウム抵抗性の遺伝解析に供した. M819のNADHーNR活性は野生型10%と低かったが,NADPHーNR活性は野生型より顕著に高かった.またNiR活性も野生型より高かった.一方NRの部分活性でありヘム領域が関与しているMVーNR及びFMNH_2ーNR活性ではM819は野生型の10%以下であったが,MoーCo領域が関与しているBPBーNR活性では野生型より高かった.またM819のXDH活性は野生型と同様であった.以上の結果から,M819はNR構造遺伝子のヘム領域を決定する部分に変異を生じていると考えられる.塩素酸カリウムに対する抵抗性と感受生との分離比が1:3に適合したことは,イネの塩素酸カリウム抵抗性が単因子劣性遺伝子に支配されていることを示唆している.
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