平成元年度は、栽培作物に存在する花芽分化誘導物質の抽出方法の確立と、作物の生活環進行に伴うその生理活性の変動を把握することに重点をおいて研究を進めてきた。 その結果、抽出材料に用いたイネ、コムギ、ダイズ、トウモロコシ、ジャガイモなどにアオウキクサの花芽分化を誘導する物質が存在することが確認された。水またはリン酸bufferで抽出を行い、ゲルろ過してみると、花芽分化誘導活性を持つ物質の分子量はおよそ200k、15k、1-2kと推察された。これらの花成誘導物質は栄養成長時でも生殖生長時でも見いだされ、分子量約200kの高分子性化合物はタンパク質であることがわかった。これまでの研究経過とこれらの結果から、「植物には、花芽分化誘導物質の前躯体タンパク質が存在し、花芽分化誘導処理によりこれが低分子化されて花成ホルモンとなるのではないか」と考えられる。そこで、protease inhibitorの花芽分化に対する効果を調べてみると、ある種のprotease inhibitorにより花芽分化が著しく阻害されることが確認された。以上の結果、花芽分化誘導物質の前躯体は高分子性のタンパク質であり、花芽分化誘導処理によりそれらが分解された結果、低分子性の花芽分化誘導物質が生じていると考えられる。 しかし、現時点では、高分子のタンパク質性の花成誘導物質と低分子の花成誘導物質の構造的関係が明らかにはなっていない。また、植物の栄養生長から生殖生長への移行に際し、低分子性の花芽分化誘導物質が量的に増加することも確認されていない。これらの点は、花成誘導物質が単離精製された後、同定されることにより解決できると考えられる。
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