研究概要 |
生態系調和型農業の推進の観点から,海水(Nacl)を利用した野菜の硝酸態窒素軽減法について検討した。結果は次の通りである。 1.これまでの研究では,塩は常に“害"作用物質として位置づけられてきたが、培地を土壌から土壌改良資材を中心にした人工培地(EV耕培地)に変えることで,Nacl施用が積極的に行なえるようになった。新しく開発したEV耕培地は,良質な土壌を上回る理化学性をもち,トマト,メロン,ホウレンソウなどを良好に生育させた。また,この培地は,除塩が極めて容易であることも大きな特徴のうちの一つである。 2.トマトではNacl処理を3段階(1,3,5ms),ホウレンソウでは,Nacl処理を2段階(1.3ms)とKcl処理を2段階(0.8g,2.4g/l)とした場合,トマト収量はNacl処理濃度が高まるとともに低下するが,糖や酸含量は高まり,ホウレンソウ収量はNaclあるいはKcl処理で低下することはなく,糖含量が高く維持された。 3.光合成,蒸散速度,水利用効率は,Nacl処理で明らかに低下する傾向を示すが,作物間でその値が多少異なった。とくに,植物体(乾物)1gを生産するのに必要な水分量で表示する水利用効率は,Nacl処理でトマトでは高く,ホウレンソウでは低くなる傾向を示した。光合成ならびに蒸散速度の低下は,塩ストレスによる内生ABAの高まりが,気孔の閉口をもたらしたことと密接に関係する。 4.Nacl処理は,トマト果汁とホウレンソウ茎葉の硝酸態窒素含量を転減する方向で作用した。この作用機構は,Nacl中のClは葉身の硝酸還元酵素を活性化させることならびに培地からの硝酸態窒素の吸収が抑制されることと関係する。この事は,野菜における硝酸態窒素の軽減は,葉身中の硝酸還元酵素の誘導促進ばかりでなく,むしろ培地からの硝酸態窒素の吸収制御をも十分考慮すべきことを示唆している。
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