テッポウユリの自家不和合性反応は自家受粉して数時間後に花柱内の一層からなる特殊な花柱溝細胞から分泌される物質を通じて伸長しつつある花粉管と花柱溝との相互作用によって誘導されることをこれまで明らかにしている。これを基にして平成2年度は我々が既に開発しているユリの雌ずいを二等分に縦断する系(Bisected pistil system:BPS)を用いて実験を行った。前年度に、自家不和合性反応は一種のストレス状態に遭遇して生理異常現象の代謝を行うことによりイオンラジカル(O^ー_2)を多く発生することを明らかにした。そしてそのラジカルにより自家受粉による花粉管伸長は抑制されるが、BPSの花柱溝に、無機化合物の二酸化ゲルマニュウムを処理することによりその花粉管伸長抑制が解除されることも明らかにしている。従って、これを基にして行った平成2年度の成果として、ユリの自家受粉により花粉管伸長抑制は有機化合物のゲルマニュウムによっても解除されるか否かを調べたところやはり無機化合物のゲルマニュウムと同様に解除された。このことはゲルマニュウムの無機化合物および有機化合物の違いではなくゲルマニュウム分子そのものが物理化学的・生物物理学的メカニズムによりユリ花粉管伸長という生物体内の化学反応(いわゆる自家不和合性反応)に関与しているらしいということも明らかになった。 また花柱溝粘液物質と自家不和合性反応とは密接な関わりがあることを明らかにした。その粘液物質中の成分の一部にはある種の花粉管伸長促進物質が含まれており、この物質が花柱溝で伸長しつつある花粉管を刺激して伸長を促進するものと思われた。この物質の候補としてはある種のヌクレオチドの可能性が高いという証拠を得た上で、この物質の合成・分解系に関与する代謝系の存在するということも解明した。
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