テッポウユリの自家不和合性反応は、花柱溝細胞およびこの細胞から分泌される花柱溝粘液と、花柱溝を伸長中の花粉管との間の相互作用により成立していることをこれまで明らかにしている。 さらにこの花柱溝粘液物質は不和合性制御機構解明の重要な手掛りとなることを突き止めた。自家受粉による花柱溝への粘液物質の分泌量および分泌中のタンパク量が減少したり、また粘液物質中の炭水化物の低分子化が起こらないために不和合性反応が生じることを明らかにした。また粘液物質中には花粉管伸長促進物質が多く生合成されて存在しており、これが花柱溝で伸長中の花粉管を刺激して伸長生長を促進するという知見を得た。この物質は一種のヌクレオチドとしての可能性を高いという証拠を得ており、且つこの物質の合成・分解に関与する代謝系も一部明らかにした。 また自家不和合性現象はストレス反応の一つであるという知見を得た。このことは、白家受粉による雌ずいが、イオンラジカル(O_2)を多く発生して異常な生理状態となり、代謝調節がスム-ズに進行しないことや、ス-パ-オキシディスムタ-ゼ、カタラ-ゼ、グルタチオン還元酵素などの活性が増大したこと、 また自家受粉した花柱溝に無機および有機ゲルマニュウム化合物を処理することにより花粉管伸長抑制が解除されたことなどからも明らかとなった。これらのことから自家受粉により柱頭では『押し掛け亭主』の出現ということで一種のストレス現象が起こり、他家受粉に比べて多く発生したイオンラジカルが酵素活性、酸素の合成・分解などの制御機構に変動を来した結果花柱内および花柱溝粘液物質中の代謝活性の変動や代謝生成物の消長が生起されて、終局的には自家不和合性反応が起こり花粉管伸長抑制が誘導されるものと思われる。 今後はこれらの研究結果を基に、自家不和合性機構解明の研究をさらに発展させたい。
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