オオトビモンシャチホコは森林害虫として知られ、長野県下でもコナラなどの樹木に大害を与える。しかし、突然固体数が減少し全く見られなくなるという発生型を示す。本種は幼虫期に強い集団生活を行うが、生活の基本単位である集団のもつ適応的意義と集団が本種固体数変動に及ぼす影響について研究を行った。 従来から担当者らが行ってきた研究の結果と本年の解析結果をまとめて次のような成果を得た。 1.集団の生存に対する適応的意義 飼育実験によって、幼虫の集団が大きいほど生存率や発育に有利となることがわかった。また野外でも、集団が小さいほど若齢期に風雨の攻撃を受けて全滅してしまうことが明らかになった。しかし、集団が大きすぎると餌の食い尽くしによる移動の際の死亡及び老齢期における病気による死亡の増加を招き、集団に最適サイズがあることも示された。 2.集団サイズが固体数変動に及ぼす影響 野外における生命表解析により、主死亡要因の検出と集団サイズ別の主死亡要因の働き方を解析したところ、集団サイズのちがいによって死亡要因と幼虫期の死亡過程にちがいが見られた。すなわち、小集団では、若齢期に気象条件が働き急激に固体数を減少させること、中集団では、アリやクモなどによる捕食、餌食場所間の移動の際の死亡がみられるが、固体数の減少はさほど多くはなかった。次に大集団では、中齢期までは中集団とほぼ同じ死亡要因によって同じような死亡過程をたどり、固体数もさほど減少しないが、中齢〜老齢期にかけて餌食場所の移動の際の死亡と病気による死亡が多くみられ固体数が激減した。このように集団サイズごとに異なった死亡要因が集団単位に働くことによって本主固体数の変動は律せられているものと考えられる。
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