総合的害虫管理(IPM)の基礎として不可欠な、害虫個体群のモニタリングシステム確立のため、数種の重要農業害虫を対象に、野外調査デ-タをもとに統計生態学的見地から詳細な検討を行った。イネ害虫のトビイロウンカについて、日本及びインドネシア、フィリピンなどで得られた広範なデ-タを用いて水田における個体群の空間分布様式の特性を統一的に解明し、この知見をもとに、逐次抽出による密度の推定・検定法及び存在頻度法による省力密度推定技術が日本のみならず、その被害が現在甚大な東南アジア地域においても、広く本種の発生予察・個体群管理システムの基幹技術として適用できることを示し、特に現地研究者との共同研究を進めているインドネシアの個体群に対して、個体群生長特性の解析と併せて具体的な調査・管理計画を立案し、これらの技術の実用化への途を開いた。柑橘害虫にカイガラムシ類、特にヤノネカイガラムシ及びルビ-ロウムシについては、和歌山県下の省農薬ウンシュウミカン園における個体群調査デ-タを解析して樹内及び樹間の分布の特性を明らかにし、それをもとにグレ-ド法を中心とした簡易個体数推定技術を開発して、正確な密度評価が困難なこれらカイガラムシ類の個体群管理におけるその有用性を示した。また、一般に、害虫根絶計画や植物検疫に関連した調査では、対象害虫の密度が実質的に"ゼロ"とみなしてよいかどうかの判定(いわゆる"ゼロ確認")を迫られる場面が多いが、このような場面に常に適用可能な、ゼロ・サンプルの連続数に基づく簡易逐次検定法を導いた。有限母集団を想定したこの新しい方法では、母集団サイズに応じた効率のよい検定が可能になり、いろいろな場面で実用価値があると考えられる。
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