凍結しても融解後に生存できるいわゆる耐凍性型の昆虫は、しばしば0℃以下の比較的高い温度で凍結する。これは、極端な過冷却状態が破れると急激な冷却が起こり、細胞内凍結が発生し、死に至る可能性が高くなるからである。このような危険性を回避するため、耐凍性型の多くの昆虫は、凍結を積極的に誘導する氷晶核を体内に作り出し、0℃以下の比較的高い温度で凍結することにより、細胞内凍結を回避している。しかし、この氷晶核について不明な点が多い。 ニカメイガ幼虫は冬期体内に多量のグリセロ-ルを蓄積することにより、低温耐性が強化され、-25℃まで耐えることができた。一方、その過冷却点は越冬中-14℃前後でほぼ一定であった。この結果、ニカメイガ幼虫は耐凍性型の昆虫であり、体内に氷晶核を持つことにより、冬期ほぼ一定の過冷却点を示すものと考えられる。そこで、ニカメイガ幼虫における氷晶核の存在部位を特定するとともに、抽出、精製を行った。解剖して取り出した各組織の過冷却点を測定したところ、休眠幼虫では筋肉の過冷却点が最も高く、しかも全虫体の過冷却点と一致していた。即ち、氷晶核は主に筋肉に存在していると考えられる。この氷晶核は、熱処理(100℃、5分)やプロテア-ゼ処理で活性の失活がみられた。氷晶核が存在しないと考えられる体液を除いた後の組織から調整した細胞膜に、界面活性剤(LDS)を作用させたところ、氷晶核の可溶化がみられた。これらの結果、氷晶核は細胞膜に存在する膜タンパク質と考えられる。そこでさらに、この可溶化標品をゲル濾過したところ、分子量の異なった8個のタンパク質画分が得られた。その内の分子量50〜80Kダルトンのタンパク質画分が氷晶核の活性を有していた。現在、高速液体クロマトグラフィを用いて、このタンパク質画分をさらに精製し、構造を解析中である。
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