研究概要 |
ゲノムの異なる天蚕と柞虫の種間雑種(F_1)の器官発生分化を知る目的で、正逆交雑種(Y×P,P×Y)を育成し、産卵性、ゲノムDNA量および微細形態学的にみた精子形成を調べた。また、前幼虫越冬の休眠機構を調べる一端として、天蚕培養胚子の発育に及ぼす昆虫ホルモンの影響についても調べた。 結果 1.産卵性:天蚕と柞虫の飼育第1期(5〜6月)終了後、蛹を同一条件で保護して、二化柞虫と天蚕との種間雑種を作成した。供試蛾の受精蛾歩合、受精蛾の産卵数および受精卵のふ化歩合を算出した。受精蛾歩合は天蚕より低かったが、産卵数およびふ化歩合は、Y×P、前者が225±76.45個、後者が74.20±17.73%、P×Y、前者が366±44.79個、後者が96.50は、±2.70%と、とくにP×Yが高かった。 2.ゲノムDNA量:染色体数の異なる天蚕(n=31)と柞虫(n=49)の雑種における細胞のフロ-サイトメトリ-を計測し、そのゲノム量は天蚕の量より15%程度少ないこと、F_1のそれが天蚕と柞虫のDNA量の中間値でなく、むしろ天蚕に近いことが判明した。 3.精子形成:F_1の幼虫期における精巣発育は、原始精原細胞より成長して精母細胞における減数分裂終了時までの間に、両親のそれと形態学上に相違が無かった。しかし、分裂終了後ネ-ベルケルン出現時に、細胞間橋を介して2細胞の核が融合する特異像を、F_1で認めた。また、F_1の染色体数が両親の総和でなく、Y×Pではその数が70、71、73、76を、P×Yでは65、66、68、76を確認し、この対合不完全がF_2発生の阻害要因となっているものと推定した。 4.培養胚子の発育に及ぼす昆虫ホルモンの影響:産下後24および120時間の卵殻除去胚子をテスタ-にして、Graceの塩液に天蚕体液を添加した培養液を対照区に、ecdysteroneとKK-86Sの発生分化に及ぼす影響について検討した。ecdysteroneは胚子発生に対し、対照区とほぼ同程度の促進効果がみられたが、KK-86Sは異常発生を来した。
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