家蚕幼虫の体液中に存在する3種類のプロテア-ゼインヒビタ-、アンチトリプシン(swーAT)、アンチキモトリプシン(swーAchy)およびキモトリプシンインヒビタ-(SCI)に対する抗体を用いてELISA法により昆虫ホルモン処理や病原ウィルス感染にともなう体液中の上記3種のインヒビタ-の変動を調べた。5令2日目幼虫の頭胸部を結紮し、12時間経過後、JHアナログ(S31183)あるいは20ーハイドロキシエクダイソン(20ーOHーEcd)を投与した。投与後12あるいは24時間経過後に体液を採取した。病原ウィルスとして濃核ウィルス(DNV)を用い5令1日目から摂食感染させ、24、47あるいは72時間後に体液を採取した。JHアナログによりSCI、swーAT、swーAchyのいずれにおいても20〜40%の減少がみられ、特にSCIについて効果が顕著であった。正常な生長過程においては3種のインヒビタ-のいずれについても5令2日目にはそれらのmRNAは十分量存在しているにも拘らず体液中への分泌量は少ない。この結果はJHによりmRNAからインヒビタ-への翻訳が抑制されることを示唆している。20ーOHーEcdの効果は明確でなかった。DNV感染による体液中の3種のインヒビタ-量の増加は認められず、少なくとも中腸への感染に対する応答はないと考えられた。現在3種のインヒビタ-のcDNAをプロ-ブとしてmRNA量の変動を測定しつつある。また家蚕体液中にswーATと部分的に同一のアミノ酸配列を有する別種のアンチキモトリプシン(swーAchyII)を見出し、その配列分析を完成した。両者の構造からインヒビタ-の生理機能(特異性)を効率よく獲得するために遺伝子あるいはその転写後のmRNAの編集が行われている可能性があり今後の研究発展が期待される。
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