家蚕体液中に存在する2型6種のプロテア-ゼインヒビタ-の生理機能を明らかにする目的でこれらインヒビタ-の発現調節機構の生化学的な解明を志向し、発育過程や外部刺激による家蚕体内でのmRNA量およびインヒビタ-量の変動パタ-ンを調べた。本研究で得られた結果は(1)カイコアンチトリプシン(swーAT)の完全鎖長cDNAクロ-ンを得た、(2)カイコアンチキモトリプシン(swーAchy)の完全鎖長cDNAクロ-ンを得た、(3)カイコキモトリプシンインヒビタ-(SCI)の部分鎖長cDNAクロ-ンを得た、(4)ELISA法で測定すると体液中のswーATとswーAchy量は眠期で減少し5令初期から前蛹期まで漸増し、他方SCIは吐糸期に最大量存在した、(5)上記cDNAを用いてノ-ザンブロット法で調ベると脂肪体中のswーATとswーAchyのmRNA量は4令2日目および5令2日目〜3日目に最大量存在し、SCIのそれは5令3日目に最大で、4令期にはわずかしか存在しなかった、(6)JHアナログ(S31183)の投与により体液中のswーAT、swーAchyおよびSCIのいずれについても20〜40%の減少が認められ、特にSCIについて効果が顕著であった、(7)20ーハイドロキシエクダイソン投与の効果は明確でなかった、(8)カイコ濃核ウィルス感染によっては体液中の3種のインヒビタ-量の増加は認められなかった、(9)swーATと部分的に同一のアミノ酸配列を有する別種のアンチキモトリプシン(swーAchyII)のアミノ酸配列分析を完成した、以上9点である。本研究の結果、家蚕体液に存在するプロテア-ゼインヒビタ-の生理機能を完全に明らかにすることは未だできていないが、JHアナログによる興味ある効果が観察され今後更にこの研究課題を継続していく上で重要な知見を得たと考えられる。
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