プロトプラスト融合を中心に組織培養法を活用する新しい桑育種に関する2、3の基礎実験を試みた。先ず、試料用カルスの保存方法について検討した。そして、前処理を行って冷蔵するこの方法によると20週間まで可能であることを確認した。なお、更に長期を見込めるが、有効期間の確認は第2年次にも引続き継続する予定である。ところで、この冷蔵試験の中で、冷蔵カルスにも休眠に類似した現象が存在することを発見した。即ち、この現象は冷蔵3週間経過あたりから現れはじめ、8週間経過頃が最も顕著となる。しかし、18週間に至るとこの現象から覚醒し、あたかも外界の温度条件による他発休眠のような状態になることが判明した。一方、出庫時のカルスの酵素を電気泳動法により分析し、冷蔵期間中における酵素バンドの消長を調査したところ、冷蔵3週間あたりから変化が現れるが、18週間を経過すると冷蔵開始時のパタ-ンにもどった。この消長の模様は前述の休眠類似現象の消長と一脈相通ずるものと考えられる。なお、この現象はジベレリンとジチオスレイト-ルを保存培地へ添加することにより打破されることが判った。更に長期間保存のための冷凍保存法については第2年次において検討する予定である。次に、試料細胞の単離のため、カルスや器官に酵素を働かせて単離する方法の他に器官に生長調節物質を使って懸濁単離させる3つの方法を検討した。方法の比較は次年度に行う予定である。また、葉身由来のプロトプラストで電気融合を試みた。桑の品種間における融合の難易であることは認められたが、花粉交配の場合に比べ平易であるようである。異種植物との融合を試みたが、概ね可能ではあるが、中には電圧を高くすると破壊する場合があった。以上、本年の研究経過からみて、融合細胞の植物体再生の問題以外、課題の研究についての当初計画達成の見通しはついたものといえる。
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