カイコ核多角体病ウイルス感染に対するカイコの生体防御反応の研究はカイコの蛹および幼虫に抗原刺激を与えたときの生体防御の誘導が調べられてきた。しかし明確な生体防御反応は未だ認められていない。これらの研究では抗原の影響を個体の生死で判定している。この課題をさらに追究するため本研究では単純な系であるカイコ培養細胞を用いて検討した。 1)カイコ培養細胞にBmNPVを接種する2時間および24時間前に抗原刺激としてBmNPVのホルマリン不活化ワクチンおよび紫外線照射による不活化ワクチンを投与したが、これらの条件では生体防御は誘導されなかった。また2種の細胞を供試したが、細胞による差異も認められなかった。 2)カイコ培養細胞に抗BmNPVウサギ血清をBmNPV接種24時間および48時間前に添加したが、次にBmNPV接種(27℃、60分インキュベ-ション)直接および60分後に抗BmNPV血清を添加したが、細胞に吸着したか、または細胞内に侵入したウイルスの感染性に対しては抗血清の影響は認められなかった。ウイルス増殖後細胞外に出てきたnonoccluded virusは、培養液中に抗血清が残存していた場合は中和された。 3)細胞(S.frugiperda細胞)に対して非許容性ウイルス(BmNPV)を接種(27℃、60分インキュベ-ション)した直後および60分後に許容性ウイルス(X.cーnigrumNPV)を接種したが、干渉によるウイルスの感染防御は認められなかった。 カイコの生体防御機構の解明の試みとして、カイコ生体の代わりに単純な系であるカイコ培養細胞を用いて抗原刺激を与えた時、カイコ核多角体病ウイルスに対する感染防御が誘導されるかどうかを検討したが、本研究で行った条件では感染防御の誘導は認められなかった。
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