研究概要 |
熱帯・亜熱帯の農業環境の特徴は高温乾燥である。これらの地域は降雨に依存して作物生産を行っているために、降水量とその季節変動による水不足が最も大きな生産阻害要因となっている。本研究では作物生産を高め作物の安定多収を図るための方策を確立することを目的としての作物の乾燥耐性の生理・生態的機構を解明し、これに基づいた簡易なスクリ-ニング法を開発することにある。 実験1.自動潅水装置により土壌水分をpF1.7,2.5,3.3に調節した圃場にトウモロコシ8品種を栽培し、水ストレス下での生育量の低下率を比較し耐干性草種を選出した。その結果、トウモロコシの耐干性はk8388 FFR915Cで強く、JX77、交1号で弱いことが明らかとなった。さらに、水ストレスによる各品種の葉身細胞膜安定性は、k8388、FFR915Cで高く,JX77交」号で低かった。葉身の細胞膜安定性は、浸透ポテンシャルの低下度すなわち浸透圧調整機構と密接に関連していることが示唆された。 実験2.細胞膜安定性の支配要因を耐干性の異なる上記4品種について、その業身における物質の集積から明確にした。細胞膜安定性の高い品種では業身細胞液中の糖、カリ濃度の急激な増加が認められ、この2溶質が葉の浸透ポテンシャル低下要因と推定された。 実験3.耐干性の強い品種では葉組成中の脂質含量、とくにリン脂質含量の増加が水ストレルにより認められたが、耐干の弱い草種ではリン脂質含量の著しい低下が認められた。 以上の結果、トウモロコシの耐干性は葉身の生理機能と密接に関連し、葉身の浸透ポテンシャルの低下と葉身リン脂質を集積などによる葉の保水能の強化さらには膜機能の強化が、耐干性を支配している要因と推察された。現在、水ストレス下における葉細胞膜の生理生化学的変動についてさらに検討する必要がある。
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