B.thuringiensis var.israelensis(BTI)は双翅目昆虫に特異的に作用する蛋白質を生産する。この蛋白質はδー内毒素、δートキシンやICPと呼ばれている。BTIは微生物殺虫剤として使用されているものであるが、双翅目殺虫性、昆虫細胞毒性、昆虫神経毒活性、哺乳動物細胞毒性、哺乳動物溶血活性や乳飲みマウス殺傷活性などを有する。そこで、これらの種々の生物活性はδー内毒素分子のどの部分に存在するのか、そしてこれらの生物活性の相互関係を明らかにしようとした。我々はBTIのδー内毒素遺伝子より、128kDaの蛋白質をコ-ドするISRH3遺伝子と135kDaをコ-ドするISRH4遺伝子のクロ-ニングに成功している。そこで今回はISRH3遺伝子を用いて、種々の欠失変異株を作ることにより上記の目的を明かにしようとした。 まず、ISRH3遺伝子の全長よりC末端部分の欠失変異株(N末端2番から635番までのペプチド)は殺虫活性と昆虫細胞毒性をもっていた。しかし、C末端側からさらに上流を除いたペプチドではそれらの活性は失われていた。N末端側の欠失変異株も作成しN末端から613番までの欠失では殺虫性に変化なく、716番まで欠けると殺虫性が失われていた。中央部分の560番から772番まで欠失したISRH3ペプチドでも、殺虫活性と細胞毒活性が失われていた。また、560番から820番までの小ペプチドを作成したところ、殺虫性および昆虫細胞毒性は認められなかった。さらに、ISRH3蛋白質では哺乳動物溶血活性および哺乳動物細胞毒性などは認められなかった。これらのことより、ISRH3蛋白質の613〜635番の部分が殺虫性発現に必要とされることと、820〜1135番までの間にさらにもう一カ所殺虫性発現に必要な部位が存在する。一方、N末端側50%のペプチドにおいてもN末端の近傍にやはりもう一つの活性部位が存在するものである。「N末端側50%およびC末端50%のものでも中心部分とそれぞれの末端部に存在するドメインの両ドメインが存在して活性を発現するものと考えられる。」
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