研究概要 |
真菌は一般に胞子から菌糸へと成長するのに伴い形態を著しく変化させる。本研究は赤パンカビ(Neurospora crassa)の胞子を材料として発芽過程における細胞壁の化学構造変化に着目し、本年度は胞子壁の構成成分の化学分析並びに胞子壁構成多糖の構造について検討した。まず、Neurospora crassaIFO-6068野生株より分生胞子を調製した。胞子を熱水(オ-トクレ-ヴ中、120°C)、アルカリによる段階的抽出を行い、熱水抽出画分(F1),1規定NaOH抽出画分(F2)、3規定NaOH抽出画分(F3)及び残査(F4)に分画し、それぞれの画分について糖組成を分析し、菌糸体で同様の操作を行なった各試料と比較した。胞子と菌糸の間で最も糖組成の違いがみられたのは熱水抽出画分で、胞子は60%ガリボ-スよりなり、20%がマンノ-ス、15%がガラクノ-ス、そして5%がグルコ-スであったのに対して、菌糸にはほとんどリボ-スが検出されず、45%がマンノ-ス、40%がガラクト-ス、15%がグルコ-スという割合であった。リボ-ス はRNA由来と考えられるので、胞子には大量のRNAが含まれていることがわかる。他の画分については胞子と菌糸体でほとんど差がなく80%以上グルコ-スであった。1規定NaOH抽出画分を中和し透析した後、沈澱部を遠心にて集め(F2P)とし、上清を(F2S)とした。F2Pはアルカリ可溶β-グルカンで胞子の骨格多糖の一部を占めている。胞子より得たF2P画分はメチル化分析の結果、非還元末端グルコ-ス残基1個につき、1→3結合グルコ-ス残基数が約70個、1→6結合残基数が4個、1→3、1 6の両結合をもつ分岐点を1個もつ構造が示された。一方菌糸は、胞子のF2Pと比較して、非還元末端残基1個に対し、1ー3結合グルコ-ス残基の数が約40個と少なく、また1→6結合残基数も1個であることから、胞子のアルカリ可溶β-グルカンと菌糸のそれは、構造的に大きな変化があることが示された。
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