研究概要 |
我々が取得した酵母の分泌変異株ts1935は、非許容温度に移すと直ちに小胞体からゴルジ体への分泌蛋白の細胞内輸送が停止し、小胞体型の分泌蛋白前駆体を蓄積する。既存の分泌変異との相補性試験などにより本株の変異は新規な劣性変異であることが確認されたので,遺伝子を輸送にちなみUS01と命名した。温度感受性から回復することを指標に野生型のUS01遺伝子を含む断片をクロ-ン化し、5937塩基対の塩基配列を決定した。その結果、本配列中には237番のATGから始まり5607番のTGAで終る1790アミノ酸のopen reading frameが存在していることが明らかになった。各種欠失断片によりts1935を形質転換して温度感受性から回復するか否かを検討した結果より、このopen reading frameがUS01遺伝子であると考えられる。3621番にあるXhoI部位以降を欠失した断片でもts1935を温度感受性から回復させることができたので、本変異株におけるUS01遺伝子の変異塩基はこれより上流に存在する。 塩基配列より推定されるUS01遺伝子産物は1790アミノ酸全体にわたって親水性であり、分泌シグナル配列や膜貫通配列にみられるような疎水性アミノ酸の連続部分はない。468番から20アミノ酸と1771番から15アミノ酸の部分は産生アミノ酸であるアスパラギン酸とグルタミン酸に富む特徴的な配列をしている。このような配列はヌクレオリン等の核蛋白中にもみられ、他の細胞成分との相互作用に寄与することが予想される。750番目から後半の配列は7アミノ酸を単位とした繰り返し構造と考えると、1番目と4番目に疎水性アミノ酸(特にロイシン)が高頻度にあらわれる特徴を有している。これはミオシンH鎖を代表とするような繊維蛋白においてαヘリックスを形成し、2分子がcoiled coil構造となっている部分に共通する特徴である。従ってUS01遺伝子産物もその分子の後半部分を介して2量体となっている可能性が高い。
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