研究概要 |
本申請者は、将来の発酵工業の培養原料として有望なメタノ-ルを炭素源に用いてセリン経路を有するHyphomicrobium属細菌を培養し、その菌体を用いるL-セリンの酵素的合成法について検討してきた。C_1微生物の特異な代謝系の1つとして知られるセリン経路は、従来本代謝系酵素類の活性が高くて安定なC_1微生物が見出されなかったために詳細な酵素化学的研究がほとんど行われていなかったのが現状である。本研究では本申請者が見出しているセリン経路のすべての酵素活性がきわめて高いと考えられるHyphomicrobium属細菌を用いて各種セリン経路酵素類の詳細な酵素化学的性質の究明と調節機構についての検討を行うとともにそれらの知見を総合的に利用してセリンの高効率合成を達成するための基礎的条件を確立することを目的とする。本年度は各種セリン経路酵素類のうちでセリン代謝に重要な役割を果しているセリン-グリオキシル酸アミノトランスフェラ-ゼ(SGAT)の精製と諸性質の検討を行った。H.methylovorumGM2株をメタノ-ル培地グリコ-ル酸またはグリオキシル酸を添加して培養したとき、メタノ-ルの培地よりも約3倍SGATの比活性の増加が認められた。メタノ-ル培地にグリコ-ル酸を添加して培養した本菌の菌体より無細胞抽出液を調製し、硫安分画後、各種クロマトグラフィ-によりSGATを均一に精製した。分子量は150,000、サブユニット分子量は40,000、またピリドキサル含量はホロ酵素1分子当り4個と算出された。等電点をを中性付近に持ち、その値は6.9であった。至適phは8.0、至適温度は40℃であった。L-セリンとグリオキシル酸に対して基質特異性がきわめて高く、他のアミノ酸やピルビン酸、2-ケトグルタル酸などは基質ならず、広い特異性を示す動植物起源のSGATとは著しく異なっていた。なお、本酵素反応はセリンとグリオキシル酸からヒドロキシピルビン酸とグリシンの合成反応に傾いており、逆反応は認められなかった。
|