昨年度、本研究補助金を受けて研究を行ない、酵母の新しい細胞周期調節遺伝子NPS1(nuclear protein of Saccharomyces)のクロ-ニングに成功した。今年度はこの遺伝子の酵母の生育における機能、ならびに本遺伝子産物の生化学的活性の解析を行ない、以下の事を明らかにした。 1)NPS1は酵母の生育に必須でその破壊は細胞に劣性致死の形質を与える。今回、本遺伝子の破壊をホモに持つ二倍体の条件致死株を作成し、NPS1遺伝子の胞子形成過程における作用の有無を調査した。この結果、NPS1は胞子形成にも必須であることを明らかにし、またその作用時期は減数分裂前DNA複製期の当たりであることを示す結果を得た。 2)nps1蛋白に対する抗体を調製し、間接蛍光抗体法によって細胞の抗体染色を行ない、nps1蛋白が酵母の核にのみ局在していることを明らかにした。また同様に、細胞の各オルガネラを単離しその蛋白を電気泳動で分離後ウエスタンブロット解析でnps1蛋白の検出を行なった結果、この蛋白が核内のクロマチンまたは核骨格蛋白に結合した状態で存在する事を明らかにした。 3)NPS1の推定アミノ酸配列中にヒストンH1とホモロジ-のある部分、および蛋白リン酸化酵素の活性領域との類似部位が存在した。そこでNPS1遺伝子を高発現させた酵母より、nps1の部分精製標品を調製し、これについてDNA結合活性、および蛋白リン酸化酵素活性の同定を行なった。この結果、本蛋白にはこの両方の活性が存在する事を明らかにした。
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