研究概要 |
本研究は研究代表者らが発見した新規トレハラ-ゼインヒビタ-(トレハロスタチン)の化学構造解析,阻害機構の解明等を行うとともに,新規インヒビタ-の探索開発を目的としたもので,以下のような成果を挙げた。1.トレハロスタチンの化学構造の決定:元素分析,質量分析の結果からトレハロスタチンの分子式をC_<13>H_<22>O_<10>N_2と決定した。塩酸メタノ-ル水解で得られた単糖をアセチル化し,^1HーNMRで分析したところメチルグルコピラノシド(アセチル化物)であると同定した。このグルコ-スの円二色性スペクトル測定からその絶体配置をD型と決定した。もう一つの構成成分を種々なパルステクニックによるNMR法で解析し,イソウレイド基を含有する擬似環状糖アルコ-ル(5員環)であると決定した。次いで,その立体配置をNEOSYスペクトルより明らかにした。最終的に,トレハロスタチンの化学構造を,αーDーグルコピラノシル残基の1位と糖アルコ-ル部分のイソウレイドの窒素原子とが結合したものであると結論した。この構造は全く新規なものであり,イソウレイド結合で架橋された擬似二糖が発見されたのも初めてである。2.酵素阻害機構の解析:擬一次的反応によって酵素を阻害することを明らかにし,トレハロスタチンが基質アナログ的な一種の自殺基質であると推論した。3.大量生産の検討:トレハロスタチンの生産条件を検討し,基本培地の122倍の生産量の条件を確立した。4新しいインヒビタ-の探索:さらに新規なインヒビタ-を求めて,生産微生物の再探索を行なった結果,未同定の放線菌YOー23株の分取に成功した。本菌株の培養液からインヒビタ-の分離精製を行い,このものが既知阻害剤と異なって動物起源のトレハラ-ゼを強力に阻害することを明確にした。その構造決定を行うには至らなかったが,このインヒビタ-が新規なものであると結論した。
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