研究概要 |
本研究を遂行するに当たってまずcabystin類のHPLG分析法を改良し、高感度化、高精度化をはかった。従来は、短波長紫外線吸収による非特異的ペプチド検出法を用いていたため、目的以外の植物成分が分析を妨害するという問題点があった。そこで今回はcadystin類が多く含むSH基を特異的に化学修飾し、発蛍光するDACM誘導体、あるいは特異的紫外線吸収を示すビニルピリジン誘導体に変換してHPLC分析する手法を開発した。このうち前者を稲中にCd^<++>で誘導合成されるcadystin類の分析に適用した。その結果、未処理の稲中に存在するSHペプチドは主としてグルタチオン(GSH)であるが、稲をCd^<++>処理した場合にはGSH量が激減すると同時にcadystin類が新たに誘導合成されてくる事を明らかにした。次に、これらの分析の標準試料となり、かつ、抗体作成のための抗原となるべきcadystin類を酵素合成する手法を確立した。この酵素反応には構造決定の際に見いだしたカルボキシペプチタ-ゼ(Cpase)の新奇な特異性を用いた。すなわち、Cpaseはcadystin類のCysーGlyとCysーGlu結合を切断するが、γーGluーCys結合は切断できないという特異性を利用し,GSHを基質としてCPase Y処理によりcadystin類の合成を目指した。酵素反応生成物をHPLC分析した結果,6種の生成物を得、生成物のHPLC上の挙動、本研究で開発した誘導体化後のHPLC上の挙動およびSIMS分析の結果から主要な2種の生成物はcadystin(γーEC)_2Gと(γーEC)_3Gであることを明らかにした。さらに、その他の生成物はγーEC、(γーEC)_2、(γーEC)_3および(γーEC)_2脱水物である事が判った。この結果からGSHのCPase Yによる代謝経路を明らかにすると同時に、高度な有機合成の技術を必要とせず、一段階の反応のみで極めて容易にcadystin類を酵素合成する道を開く事ができた。今後、この手法をもとに大量合成法を開発し、合成標品を用いて植物の重金属適応を化学的に解明して行く予定である。
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