研究概要 |
新しいオピオイドアンタゴニストとして牛乳Kーカゼインのトリプシン消化物からcasoxin C(TyrーIleーProーTleーGlnーTyrーValーLeuーSerーArg)を単離した。本ペプチドはオピオイドアンタゴニスト活性以外に回腸収縮,動脈収縮,およびアンジオテンシン変換酵素阻害活性を示した。本ペプチドの構造活性相関に関する研究からC末端のTyrーValーSerーArg配列がオピオイドアンタゴニストに必須であることが判明した。また人乳α_<s1>ーカゼインのペプシン・キモトリプシン消化物からオピオイドアンタゴニストcasoxin D(TyrーValーProーPheーProーProーPhe)を単離した。本ペプチドも回腸収縮,動脈弛緩活性を併せ持っていた。オピオイドアンタゴニスト活性にはN末端のTyrが必須であった。これらの結果から,casoxin Cおよびcasoxin Dはレトロ配向モデルに従わないオピオイドアンタゴニストといえる。 牛乳βーカゼインのC末端ペプチド(GlyーProーPheーProーIleーIleーVal)を一残基置換して得られたTyrーProーPheーProーIleーIleーValはオサピオイドアンタゴニスト活性を示した。一方,C末端Valを削除して得られたTyrーProーPheーProーIleーIleはオピオイドアゴニスト活性を示した。このことはC末端のValの存在によってオピオイドアゴニストからアンタゴニストへの変換が生じることを意味している。また合成によって得られたTyrーProーPheーProーProーPheはμーレセプタ-に対してはオピオイドアゴニスト活性を示したがδーレセプタ-に対してはアンタゴニスト活性を示した。 ペプチド性のオピオイドアンタゴニストはきわめて珍しい物質であるが、レトロ配向性アンタゴニスト以外にも多種類のタイプのものが存在することが判明した。オピオイドアゴニストはレセプタ-に結合するばかりでなく,ポストレセプタ-機構の引き金を引く必要があるのに対し,アンタゴニストはレセプタ-に結合するだけで良いため構造的な自由度が大きいのである。
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