天然および合成の昆虫幼若ホルモン活性物質の構造上の特徴は、原子数が14〜16からなる鎖状ないしは棹状の分子であり、分子の一端に何らかの官能基が組み込まれたものであることが明らかにされてきた。本研究者らは活性の高い誘導体の合成開発研究の中で、その実像をより具体的に、それは全長が19〜21A^^0の鎖状分子であり、その両端にかさ高さの径が4〜7A^^0のcavityをもつものであることを明らかにしてきた。 本研究においては、以上のような枠組みを満足させる活性構造の中に、オキシム、エ-テル、アミン等の官能を組み込んだ化合物を合成し、これら官能の生理活性に及ぼす効果を調べた。その結果オキシムにあってはその窒素原子が、エ-テルおよびアミンにあってはそれぞれ酸素と窒素が分子内の特定の位置に組み込まれたときに、高い活性が発現されることがわかった。これより、これら官能の活性発現において果たず役割は、受容体との位置特異的な相互作用であることが明らかとなった。またその位置を鎖状分子の官能基末端より約4.6Aのところであると特定することができた。換言すれば、幼若ホルモン受容体はその径が19〜21Aのcavityを形成し、その一端より約4.6Aの位置に特定の官能基との相互作用部位をもつものと考えられた。 さらに官能基の位置異的相互作用の物理化学的内容を明らかにするために、エステル、アミド、カ-バメ-ト、ウレア等の官能を組み込んだ分子を設計合成し活性を調べるとともに、これらの官能基の靜電ポテンシャルを計算した。その結果幼若ホルモン活性を示す分子に組み込まれた官能基は、いずれも負の靜電ポテンシャルのピ-クを持つことが明らかになった。そしてそのピ-クが上記の、分子末端より4.6A^^0のところにある位置特異的相互作用部位に重なるように分子設計されたとき、高い活性を発現することが明らかとなった。
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