本年度は温帯上部〜亜高山帯に分布する森林土壌として、長野営林局王滝営林署管内三浦実験林のヒノキ風倒跡地の湿性鉄型ポドゾルと、名古屋営林支局新城営林署管内段戸国有林のブナ天然林下の褐色森林土について調査し、断面記載や立地環境条件を調べるとともに微細形態学的特徴を研究するための未撹乱試料を採取した。前者はわが国の温帯上部〜亜高山帯の多雪地帯の平坦〜緩斜面に比較的広く分布するもので、土層内に季節的な停滞水を生じるため極めて取扱いが困難な土壌の一つである。また、後者は、わが国の森林のおよそ50%を占める褐色森林土の6土壌亜群の内の典型亜群に属するもので、わが国の代表的な森林土壌の一つである。採取した未撹乱試料に真空下にて不飽和ポリエステル樹脂を浸透し、切断・研磨した土壌薄片を偏光顕微鏡にて観察した結果、三浦実験林に分布する湿性鉄型ポドゾルでは、下層土のマトリックス内の粗粒な骨格粒子と微細なプラズマ粒子の配列状態から、主として石英斑岩の深層風化物に由来する比較的粗粒な物質の非常に密な充填による不透水層の形成が表層還元作用の主な発現要因であり、ヒノキ壮齢林の風倒やヒノキ植栽木の大量枯損の主な原因であることを明らかにした。また、段戸国有林のブナ天然林下の褐色森林土は、各土層のマトリックス中の一次鉱物の種類、形態および変質の程度などから、結晶片岩に由来しそれ程風化の進んでいない斜面堆積物を母材とする比較的若い土壌であり、また、火山灰の影響が全く認められないことなどから、それらが分布する緩斜面も地質学的にはそれ程古い形成ではないことを明らかにした。
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