本年度は、名古屋営林局小坂および久々野営林署管内の温帯上部〜亜高山帯に分布するヒノキ人工林およびイヌブナやミズナラなどの広葉樹天然林下において、凸型斜面、斜面上部、尾根状部などに発達する成因が明らかでない赤褐色〜暗赤褐色を呈する土壌を調査し、断面記載や立地環境条件を調べるとともに微細形態学的特徴研究用の未攪乱試料を採取した。未攪乱試料に樹脂を浸透し作製した土壌薄片を偏光顕微鏡にて観察した結果、それらの赤褐色〜暗赤褐色を呈する土壌は、中生代白亜紀に形成された流紋岩〜石英安山岩質の濃飛流紋岩から生成されたものであり、一次鉱物の風化による粘土の生成が進んでいること、遊離酸化鉄の生成の程度に比較して脱水結晶化の程度が進んでいること、粘土の移動集積が見られないこと、プラズマセパレイションが発達していることなどから、母岩である濃飛流紋岩が白亜紀末の花崗岩や石英斑岩の貫入を受けた際の熱変成作用により赤褐色〜暗赤褐色を呈するに至った変成物から発達したもので、氷河期の温暖な間氷期に進行したとされるアリット化作用などによる珪酸の流亡や遊離酸化鉄の脱水結晶化、いわゆる赤色風化作用の影響は少ないものと推定された。 従って、飛騨高地準平原面に分布する残積性の土壌の赤褐〜暗赤褐色の土色は、母岩である濃飛流紋岩がマグマの貫入を受けた際の熱変成作用により生成された脱水結晶化の進んだ遊離酸化鉄に由来するものであり、現在それらの土壌の表面では多かれ少なかれ浸触作用による表層土壌の流亡や、森林の影響による有機物の集積やそれに伴う土壌構造の形成が進行していると思われるが、基本的な性質は濃飛流紋岩の熱変成作用による変成物の特徴が強く反映していることを明らかにした。
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