森林で覆われた流域においては、山くずれはその跡地での土層生成を通して周期的に繰り返し発生している。この性質を考慮すると、誘因としての降雨条件が同じでも、それに対する流域の応答すなわち山くずれ発生率は同じにはならず、過去の山くずれの発生履歴によって異なる。本研究は、風化速度が大きく山くずれの周期が短い風化花崗岩地帯や火山砕屑物地帯を対象にして、山くずれの周期性を考慮した流域生産土砂量の予測手法を開発することを目的にしている。 本年度は鹿児島県根占町(花崗岩地帯)と喜入町(しらす地帯)の2箇所において調査地を設定、山くずれ周期の推定、表層土厚分布の把握、降雨と山くずれの関係解析の諸作業を実施した。得られた結果は以下の通りである。 1.根占町の花崗岩地帯では、1938年に続き1990年にも多数の山くずれと土石流が発生した。空中写真判読によると、1990年の山くずれ跡地は1938年のそれと同じところで形成されていない。一方喜入町のしらす斜面では、同じところでしかも短い間隔で繰り返し山くずれ跡地が形成されている。 2.根占町の花崗岩地帯における山くずれの周期は5×10^2年以上である。一方喜入町しらす斜面における山くずれの周期は極めて短く、20年ないし50年である。なお根占町の花崗岩地帯は数枚の指標テフラによって覆われており、テフラクロノロジ-による周期の推定が可能である。 3.喜入町のしらす斜面では、表層土の分布量は植生によって概略推定が可能である。 4.流域における山くずれ発生のポテンシャルは表層土厚の確率密度関数によって表される。多数の山くずれが発生すると、限界厚以上の表層土の分布が減少し、山くずれのポテンシャルは小さくなる。
|