森林流域においては、山くずれは土砂生産の主要なプロセスであり、その跡地での土層生成を通して周期的に発生する。この性質によると、降雨条件が同じでも流域の山くずれによる生産土砂量は同じにはならず、過去の山くずれの発生履歴により違ってくる。本研究は、風化速度が大きい花崗岩地域や火山地域を対象にして、山くずれの周期性を考慮した生産土砂量の予測手法を開発することを目的とした。本年度は阿蘇根子岳(火山)、宮崎県一房山、屋久島(以上花崗岩)において、山くずれ履歴、表層土厚分布および降雨条件に関する測定と解析を実施した。得られた成果は以下のように要約される。 1.阿蘇根子岳では1990年多数の山くずれ・土石流が発生し大きな被害がでた。山くずれの履歴解析によると、この50年間では一部を除いて山くずれ跡地は同じところで形成されていない。一部とは火山灰が幾重にも堆積した斜面や風化が進んだ斜面で、ここではこの50年間に同じ斜面部位で山くずれ跡地が少なくとも2回形成されている。根子岳における山崩れの周期は5×10^2〜10^3オ-ダ-年である。山くずれの周期には阿蘇中岳からの噴火による降灰の頻度が関係している。 2.典型的な風化花崗岩地帯の一房山調査地では天然林の伐採が進み、山くずれが多数発生している。ここでは天然林下においても過去から山くずれが多かったものと考えられ、渓床にはアカホヤ火山灰(6300YBP)の上に土石流堆積物が厚く積もっている。山くずれの周期は、崩壊物質となる表層土の生成速度から推定して、風化が著しく進んだ斜面で40〜50年、平均的な値として5×10^2年である。 3.屋久スギを指標として推定した屋久島花崗岩斜面における山くずれの周期は場所により異なり、1×10^3〜2×10^3年である。
|