リグニン構成単位間の結合は、エ-テル結合および炭素-炭素結合からなっている。リグニン化学構造の均一性に関する従来の研究によれば、細胞壁中におけるリグニンの存在部位によって、これらの結合の存在量に相違があること、すなわちエ-テル結合に富むリグニン部分および炭素-炭素結合に富む部分が存在することが知られている。しかし、炭素-炭素結合の連続した、いわゆる縮合型リグニン区分が、実際にどの程度の拡がりをもつかについてはほとんど知られていない。 筆者等は従来からトリメチルシリルアイオダイド(TMSiI)がリグニン中のエ-テル結合を、極めて温和な条件で選択的に開裂することに注目し、この反応を用いたリグニン化学構造の検討を行っている。本年度の研究においては、本試薬により木粉あるいは単離リグニンを処理する際の処理条件の最適化を計るとともに、得られた条件においてエゾマツ木粉および各種磨砕リグニンの処理を行い、処理リグニン性状を検討した。その結果、木粉中のリグニンおよび磨砕リグニンのいずれについても、そのほぼ全量が分子量500以下の低分子量物質となった。また、この処理におけるフェノ-ル性水酸基量の増加から、本試薬によるエ-テル結合の開裂はほぼ完全に進行していることが確認された。以上の結果から、天然リグニン中における炭素-炭素結合の連続的な存在は、主としてリグニン構成単位3ユニット以内であると結論した。
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