南西日本のアオリイカの地方集団の解析を行なうことを目的として、平成元年9月に沖縄県阿嘉島周辺のアオリイカの産卵生態の調査を行ない、従来考えられていたアオリイカの産卵生態とは異なった習性を示す地方集団を認めた。この知見に基づき、平成2年度は4月〜10月に沖縄県石垣島のアオリイカの地方集団について、産卵生態に重きを置いて調査研究を行なった。この結果、石垣島周辺のアオリイカ地方集団にも阿嘉島と同様に従来の報告と異なる産卵生態を示す季節産卵集団が観察された。すなわち従来報告されているアオリイカの卵は、1卵嚢中に平均4〜7粒の卵が収められた卵嚢塊が房状に産卵基盤上露出してに産み付けられるが、今回新たに観察された卵嚢塊は死んだテ-ブル状サンゴの下面に一面に1卵嚢中の卵数が2粒の卵嚢が平面的に産み付けられている。石垣島での従来型の卵嚢は、4下旬〜5月下旬にモク類やエダミドリイシ類に産み付けられ、新しく観察された産卵群の卵嚢塊は6月下旬〜10月上旬にテ-ブル状サンゴの死骸を選択的に利用して産卵されていた。これらの2群の産卵期には重複が無く、それぞれの産卵期の間にも綿密な探索を行なったにも関わらず、卵嚢塊は発見されなかった。これらの点から、両者の個体群間には、生態的隔離の存在の可能性が高く、石垣島周辺のアオリイカの地方個体群には少なくとも産卵期、産卵基盤、産卵習性、1卵嚢中卵数が明らかに異なる2群の季節産卵群の存在が識別された。
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