魚類の性染色体分化について明らかにする目的で、染色体調査を行った。分析を行った魚種は、トラギス科、ハタ科、ネンブツダイ科、スズメダイ科、ツバメコノシロ科、タカベ科、アジ科、タイ科、イシダイ科、タカノハダイ科、カワハギ科、セミホウボウ科、ゴンズイ科の計13科21種である。染色体調査は、著者らが確立した鰭組織の初代培養法によって得た培養細胞を用いた。染色体数は、クラカケトラギスの2n=26から、ツバメコノシロの2n=50の範囲に含まれ、このうち48が最も多く12種であった。一方、核型は、すべて単腕型を示したコウライトラギス他7種から、すべて両腕型であったクロホシイシモチ他1種までさまざまであった。このうち、NZ産カワハギについては日本生物地理学会誌(1989)に、同国産ブル-モキについては同学会第45回大会において発表した。中でも、性染色体分化に関する興味深い知見がスズメダイ科1種において観察された。すなわち、スズメダイでは、対をなさない大型のM型染色体をもつ2n=47の雄個体と、それを含まずA型染色体が1対多い2n=48の雄および雌個体が観察された。雄に見られた2つのタイプは、複合性染色体機構の派性過程にあるため、XYとXXYの両タイプが混在するものと考えられた。本結果については近く関連学会で発表の予定である。次に染色体判別のためNOR's分染を行ったところ、15種のうち13種において1ないし23対の染色体に濃染部が認められた。その他の分染法も含めマ-カ-染色体の調査が今後課題である。一方、異形を示すマダイのST染色体について、50個体の稚魚を用いてその変異を調査した。その結果、染色体が観察された41個体のうち、短腕部の大きなL型と小さなS型の出現状況は、SS型22個体、LS型7個体、不明12個体であった。これらの変異は、雌雄差による可能性も考えられ今後さらに調査を行う予定である。これら結果は日本水産学会平成2年度大会においてその概要を報告した。
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