研究概要 |
魚類におけるトリプトファン代謝酵素の研究はほとんど行なわれていない。本年度は、いくつかの想定される代謝経路のうちのキヌレニン経路を探るために、その経路の第二段の反応を触媒するアリルホルムアミダ-ゼ(E.C.3.5.1.9)の特性を明かにし、また牛の酵素の諸特性と比較した。 酵素を牛とニジマスの肝臓から抽出し、SephadexG・75とDEAE-Sepharose CL-6Bのカラムを用いて精製した。 (1)ニジマスの肝臓から1.358U/mg(約62倍)、牛肝臓から426U/mg(約55倍)の精製標品を得た。 (2)ニジマスのアリルホルムアミダ-ゼの至適pHは7.7、中性からアルカリ性側で活性の変化は少ない。一方牛酵素の至適pHは8.0、酸性ては不安定であった。 (3)ニジマス酵素は37℃以上での失活が速いが、牛酵素は60℃30分でも活性が保たれた。 (4)L-ホルミルキヌレニンに対するニジマス酵素のKmは0.28mM、牛の酵素のKmは0.78mMであった。 (5)ニジマス酵素の活性化エネルギ-は4,700〜5,700Kcal/mol、牛酸素のそれは7,100〜7,400Kcal/molであった。 (6)ニジマス酵素はトリプトファンで明らかに阻害されるのに対し、牛の酵素は逆に活性化された。この事実と、魚類肝臓のトリプトファンピロラ-ゼ(キメレニン経路の第一段反応を行う酵素)の活性が極めて低いことをわせて考えると、魚類でのトリプトファン代謝の主経路でないことが想定される。そこで、セロトニン生成経路の酵素についての観察に着手した。
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