研究概要 |
1.魚類のトリプトファン代謝機構を明かにするために、関与すると考えられるいくつかの酵素の活性と性質について観察した。 2.トリプトファン代謝において、動物では主要な経路といわれるキヌレニン経路の初発酵素であるトリプトファンピロラ-ゼの活性測定法を検討し、分離精製を試みた。魚の酵素活性は低く、また不安定であった。魚の酵素は、他の動物の酵素について報告されているようなヘマチンによる活性化を示さなかった。 3.同じ経路の第2段目の反応を触媒するアリルホルムアミダ-ゼをニジマスとウシの肝臓からそれぞれ60倍に精製し、特性を比較した。魚の酵素はウシの酵素にくらべて耐熱性が著しく低く、また高濃度のトリプトファンで阻害された。このことは、魚のキヌレニン経路が、トリプトファンそのものによって制御されることを示唆している。 4.同じ経路の第5段に位置するヒドロキシアントラニル酸オキシゲナ-ゼ活性とその生成物を脱炭酸するアミノカルボキシムコニックセミアルデヒド脱炭酸酵素活性の比から,ニジマスでは、キヌレニン経路からNAD生成系への流れは殆んど無いか極めて少ないものと思われた。 5.トリプトファンのもう1つの代謝経路であるセロトニン生成経路の初発酵素トリプトファンヒドロキシラ-ゼの活性測定法を検討し、さらにこの酵素の性質を観察した。魚類肝臓は明瞭なヒドロキシラ-ゼ活性を示し、特にニジマスとソウギョに高い活性が認められた。 以上の結果から、魚類において、トリプトファン代謝の重要な経路がセロトニン生成経路であることが明かである。このことは、トリプトファン欠乏魚の病変がセロトニン投与により抑制されるとする生物学的報告例と符合するものである。
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