海産蠕虫病の扁形、紐形、輪形、内肛、環形等の各動物は古くから生理活性物質をもつことが知られている。蠕虫類は自らを守るための甲殻、貝殻をもたず、敵から逃避するための遊泳力も弱く、かつ肉食性のものが多いので、化学物質を用いて防禦、捕食の活動を行なっているものと考えられる。筆者らは扁形、紐形、環形動物の数種のものがかなり多量のフグ毒、テトロドトキシン(TTX)を保有していることを発見した。この外、未知の生理活性物質を保有する可能性が高い。そこで本研究では蠕虫類の毒化機構と生理活性物質について検討する。 1.紐虫類におけるTTXの体内分布:ミドリヒモムシを前(頭)部、中部、後(尾)部の3部に分けてみると、吻をもつ前部の毒性が高かった。また吻、上皮、中心部、体液、粘液では吻の毒性が最も高く、上皮がこれに次いだ。この外、粘液もかなりの毒性を保有した。クリゲヒモムシでも同様の傾向を示した。餌生物の捕獲に使う器官の吻および上皮粘液のTTX含量の高いことはTTXを生存の手段として有効に使っていることを推察させる。 2.沿岸底質におけるTTXの分布:TTX保有沿岸底生動物の毒化機構を解明する基礎として、それらの生息する瀬戸内海沿岸底質土におけるTTXの分布を調べた。その結果、トゲモミジガイ、オオツノヒラムシ、ヒモムシ等が生息する地域の底質土中にTTX関連成分が存在することを認めた。 3.抗菌性成分の検索:5種の被検菌を用いてペ-パ-ディスク法により約100検体の底生動物の抗菌活性を調べた。その結果、数種のものに弱い活性を認めた。特にミドリヒモムシの水溶性画分はStaphylococcus aureusとAeromonas hydrophylaに比較的強い活性を示した。
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