研究概要 |
1.アメフラシより単離したD-アスパラギン酸(D-Asp)含有新ペプチドの一次配列の決定。アメフラシエキスをPTC化-HPLC法およびOPA-HPLC法で分析した際、クロマトグラム上、Aspの前に未知ピ-クが認められた。そこで、アメフラシ(4固体)の足筋等の筋肉組織600gより得たエキスをDowex50,Dowex1を用い分画精製し、未知物質を単離した(収量:2.5mg)。本物質は塩酸加水分解により等モルのAspとGlyを与えた。旋光分散スペクトル(負のコットン効果曲線を示す)やOPA-HPLC分析の結果から、D-AspとGlyよりなるジペプチドと考えられた。ここで3種の異性体(α-Asp-gly,β-Asp-gly,Gly-asp)が考えられるが、Edman法による一次配列分析を行ったところ、アメフラシから単離した新ペプチドはβ-D-Asp-glyと推定され、合成品との比較により確認した。2.各種水産生物におけるD-アスパラギン酸(D-Asp)、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)、β-D-Asp-glyの分布。D-Asp、β-D-Asp-glyはOPA-HPLC法で、NMDAはPTC-HPLC法で分析した。D-Aspは海綿、腔腸、環形、軟体、節足、棘皮、原索の各動物門に属する海産無脊椎動物類に見出され、しかも全Aspの20-60%を占める種が多い。脊椎動物の魚類にも痕跡程度のD-Aspが認められ、その分布が非常に広いことが明らかになった。NMDAはクロマトグラムで見る限り、軟体、環形、節足動物類に認められるが、二枚貝類を除きその量は少なく、他の方法での確認の必要がある。β-D-Asp-glyは更に分布は狭く、軟体動物でもアメフラシ類(アメフラシ、アマクサアメフラシ)に見出されるにすぎない。D-Aspの分布とは異なり、アメフラシ類特有の物質の可能性が強くその生理機能に興味がもたれる。3.D-Aspおよび関連化合物の生理機能。二枚貝アカガイ、アサリ、ムラサキイガイを強制運動を強いたり、嫌気状態においた場合内蔵組織でD-Aspの割合が増加し、NMDAは逆に減少した。今後分析例を蓄積して解明してゆきたい。
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