本年度は農業水利事業の経済効果を、具体的事例に即して計量化することを中心課題とした。計量化手法の確立と具体的な適応は、事後評価と事前評価の2面から検討が加えられた。 事後評価についての検討は、施設が竣工し既に長期間に亘り運用されている水利事業について、その経済効果を具体的に洗い出して数量化することで行われた。当初の計画では予想されていなかった効果も考慮し、特に事業の主目的である農業部門で発生する効果に限らず、農業外に及ぼした経済外効果についても分析の対象とされた。検討事例としては昨年度から継続して愛知用水事業を取り上げた。農業外効果の具体的な発現は、農業用水から工業・水道用水への水利転用に伴って発生しており、これは名古屋市を中心とした都市化・工業化によるものである。このような大規模なものでなくとも、農村部における都市化傾向は全国的に進むと予想されることから、ここで示された農業外効果は今後の水利事業を進める上で充分検討されるべきであることが指摘される。 事前評価に関する研究では、施設の建設が当初計画よりも遅延しているため、予定を超えて工事を継続している水利事業の効果の再評価を考察の対象とした。建設が長期間に及んだため、当初の計画策定時と比較して農業をとりまく経済状況が大きく変化したことが、事業の発生便益額に重大な影響を与えていると考えられるのである。ここでは具体事例として現在進行中の霞ケ浦用水事業を取り上げ、当初計画書を詳細に検討した上で、現状での効果の再評価を行った。工期の長期化は近年のほとんどの国内農業水利事業が抱える問題である。それによって派生する事業の負担問題が、この便益の再評価を通じて明確になった。なお霞ケ浦事業と比較するために筑後川の水利事業を現地調査した。
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