研究概要 |
東南アジアでは、1960年代後半から急速な技術革新によって米生産高が大幅に増大し、伝統的米輸入国は自給率を高めてきた。今日でも米の増産を図る国が多いなかで、マレ-シアは80年代に入ると自給率を急速に低下させ、当地域では特異な存在となっている。本研究はマレ-シアの稲作変化に着目し、地域条件を踏まえた個別農家の経営展開のプロセスと発展方向を解明することを目指した。本研究から得られた知見は次のように要約できる。1.マレ-シアの稲作政策は植民地時代からマレ-農民保護と米自給率の向上を目指してきた。60年代までは米増産が最優先され、インフラ整備と技術革新が主要政策であった。70年代以降,新経済政策の下で,農家所得向上政策が優先されるようになり、種々の農家支援が展開された。2.米生産高は,水稲二期作化の進展にともない70年代まで確実に上昇したが,80年頃から農民の稲作離れが進行し,自給率が低下してきた。この稲作以衰退はインフラの技術的欠陥と非農業部門の急成長による農村労働力の流出に起因する。さらに,その背景には零細経営規模と低生産性による低所得問題が存在する。したがって、経営条件を反映して,稲作発展・衰進には著しい地域性が存在する。3.好条件の西海岸地帯では、種々の農家保護政策と技術革新の恩恵によって自立経営を確立する農家が存在する。単位面積当たり所得を2倍にし,同時に借入によって規模拡大を進めている。一方,東海岸地帯では,補助金による恩恵があるが,規模の零細性と低生産力水準が障害となっている。耕作放棄田をエステ-ト方式によって再開発する試みがなされているが,低収益性のために問題が多い。ミニ・エステ-トやグル-プファ-ミングなどの経営形態の変革も試みられているが,低収益性の改善にはなっていない。稲作のみならず他作目の導入を含むビジネスサイズの拡大を検討する必要がある。
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