都市の過密化による水資源の地域的アンバランスの増大、ウォ-タフロントなど地域水環境整備に伴う新しい水需要の発生、あるいは営農形態の変化に伴う農業用水利用パタ-ンの変化など、わが国の水資源をとりまく状況が著しく変化する中で、河川における低水流出のメカニズムを明らかにし、渇水時の流量を的確に把握することは、水資源の適正かつ有効な利用を図る上で重要な課題である。そこで、本研究の初年度に当たる平成元年度には、土地利用の異なる試験流域で観測された諸水文デ-タを比較・検討して、次のようなことを明らかにした。 低水流出特性は、無降雨時における減衰特性と降雨による増加特性によって特徴付けることができる。まず、各試験流域の減衰特性を逓減係数で評価し比較したところ、カルスト地帯に位置する試験流域の低水流出は、変成岩帯に位置する流域に比べて、かなり減衰の早いことがわかった。すなわち、低水流出の減衰は主として、地質的要因によって支配されていると考えることができる 一方、降雨による増加特性は、地表での侵入、蒸発散および地中での浸透やこれに関連する流出プロセス(地表流出や中間流出)に支配されており、そのメカニズムは必ずしも簡単ではない。しかし、地下水流出成分を分離して得られた直接流出量と地下水流出量の増加特性を収支的な観点と動的な観点から検討したところ、低水流出の増加特性は地下水帯への浸透強度と浸透継続時間とによって説明できることが明らかとなった。そして、この浸透強度は流域の地質的要因に、浸透継続時間は地表での侵入や様々な流出プロセスに支配されていると推察された。土地利用や植生・土壌特性の違いは、この浸透継続時間に関連して低水流出量の増加特性に影響を与える。 また、長期的な観点からすれば、蒸発散は降雨の損失を支配する重要な要因であり、土地利用によって異なることが予想された。すなわち、造成畑地と山林地の水収支を比較した結果、造成畑地の蒸発散量は山林地に比べてやや減少する傾向にあることが明らかとなった。現在、これらの諸要因を考慮した長期間流出解析モデルの開発が進行中である。
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