代表的な生体内対向流輸送システムとして、脳底血管複合体(怪網と海綿静脈洞間)および精索血管複合体(精単動脈と蔓状静脈叢間)の動静脈間にみられる形態学的相互関係を検討し、つぎの結果をえた。 1.有袋類(オオネズミクイ)、食虫類(スンクス、ツパイ)、げっ歯類(ハムスタ-、ラット、マウス)、有蹄類(シバヤギ、ブタ)、霊長類(カニクイザル)の精索血管複合体では、ツパイを覗き、これまで常存するといわれてきた動静脈間吻合は認められず、これらの同複合体における対向流輸送は、動静脈間の組織間隙によって行われている。 2.動静脈間の組織間隙による対向流輸送を効率的に行うために、以下のような対応がなされている。 (1)動静脈は接近し、それらの外膜を共有し、中膜は薄層化している。 (2)中膜の組織間隙には多数の肥満細胞と大食細胞が存在する。これらの肥満細胞が脱果粒し、そのヒスタミンなどが血管の透過性を増進させ、大食細胞が余剰放出果粒と老化肥満細胞の収集に当ると考えられる。 (3)動静脈吻合をもつ唯一の例であるツパイにおいても、精巣動静そのものと蔓状静脈叢間に動静脈吻合はみられず、迂曲部から分枝した精巣動脈の細枝から出された小動脈が形成する小動脈網に動静脈吻合がみられる。この部分の血管壁の中層のうち内皮直下の平滑筋細胞は、特殊な分泌性細胞に分化し、血流制御に重要な役割を果すものと考えられる。 3.シバヤギの硬膜上怪網の動脈壁には、複数の頚頸動脈小体様構造が認められた。これらの小体は透過方電顕所見より、内頚動脈基部に存在するといわれる頚動脈小体と同定される。
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