ラクトフェリンは低分子量の物質から高分子量の物質まで、生体中に見出される幅広い範囲の物質と相互作用する事が見出されている。しかし、その詳細なメカニズムおよび生物機能との関連性は末だ解明が進んでいない。本研究では、ある種の補酵素のアナログ様物質と考えられている色素Cibacron Blue F3GAをモデル物質として用い、ウシラクトフェリンとの相互作用のメカニズムを明らかにし、ラクトフェリンの生体内での機能についての基礎的な知見を得る事を主要な目的とした。 ラクトフェリン溶液と色素溶液とを定量的に混合させる事により、両者の複合体を形成させると、円偏光二色性スペクトルにおいて、この結合によって310nm近傍に正の極大を示す誘起コットン効果が現れ、ラクトフェリン1分子に色素6分子が結合するとの結果も得られた。なお、ラクトフェリンへの色素の結合様式は鉄結合の有無とは関係が無い事が明らかとなった。さらに、NADH・NADPHとラクトフェリンとの結合によっても誘起コットン効果は観察されたが、色素結合の場合ほど顕著では無かった。 一方、ヒトラクトフェリンでは固定化色素との吸着性がウシラクトフェリンよりも弱い事実が観察された。この様なウシとヒトラクトフェリンの色素への結合の違いは、両者の等電点の違いに由来するのではないかと考え、分析用および分画用の等電点電気泳動を行った。その結果、特にヒトラクトフェリンで両性担体との相互作用に起因すると考えられる異常な挙動が観察された。ウシラクトフェリンの食品や医薬品分野での利用が現実のものとなってきている現在、ウシとヒトラクトフェリンの基礎的な物性の違いがそれらの生物学的な諸性質とどの様に関わっているか、今後さらに深く追究されなければならない。
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