研究概要 |
牛のFusobacterium necrophorum感染症はわが国では肝膿瘍の病型をとるものが多く、畜産経営上、多大の損害を与えている重要な疾病である。本菌は牛では門脈を介し肝臓にいたり病変を形成るとされているが、標的臓器血管内に於ける菌の動態は全く検討されていない。この点を解明することは菌の感染防御または予防上重要なことと考え、先ず実験動物腸間膜循環系に於ける本菌血栓形成能について検討したところ、次の結果を得た。 1.モルモットの腸間膜循環系に本菌菌体並びに本菌由来赤血球凝集素を接種したところ、微細循環系に於いて血栓形成と血栓の血管閉塞による血流の停止と鬱血および血管の消失が認められ、これらの変化は時間依存性に増強された。血栓形成部を免疫蛍光法により検討したところ、本血栓が接種菌並びに本菌由来赤血球凝集素に依るものであることが明らかになった。 2.F,necrophorumが動物血管内に於いて血栓を形成する機序として、本菌の血管内皮細胞表面への付着もその一原因になると予測される。そこで牛の門脈内皮細胞に対する本菌の付着性を検討したところ、本菌が37℃に於いて容易に細胞面に付着し、また、本付着性は抗全菌血清および抗赤血球凝集素血清により容量依存性に阻止された。さらに免疫蛍光法により、本凝集素が内皮細胞表面に付着することが判明した。 3.血栓形成に関係する本菌の牛血小板凝集性を先に明らかにしたので、今回その機序解明を試みた。本菌に依る血小板凝集性はトリプシン、Nアセチルムラミン酸、ラクトアルブミン水解物に依り阻害され、アスピリン、インドメサチン等に依り軽度に阻止された。以上の知見から、本菌は牛肝臓門脈末梢部で血栓を形成し、さらに定着、病変形成に進むものと思われた。
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