研究概要 |
土地造成に際して、大量の殺菌剤が散布される。それらの発生毒性についてはよく知られていない。したがって、胎生期の毒性受容過程を調べる必要がある。この時期は毒物の一次作用を受け易く、神経組織を代表として細胞分化の途中にある。よって本研究では、胎生期にこれらの活性物質に曝された動物の発育過程に現われる神経機能異常を探索した。芝生の病害に対して抗菌域が広くかつ優れた持続効果と予防効果を果たす殺菌剤の一例であるイプロジオン(iprodione,IPRD)製剤を検体として取り上げた。本剤の有効成分であるIRPDのマウスにおける発生毒性を調べるため、これで処置した母マウスから生まれた産仔における発育、各種機能試験および運動神経伝達物質の放出能を調べた。その結果、IPRDによる母マウスの処置が妊娠の後期、すなわち器官形成期以降の場合には発生学的な機能異常を生じる可能性が乏しいが、妊娠の全期間を通じて母マウスがその処置を受け続けた場合には、その産仔に少なくとも運動機能の異常を生じる可能性を示した。IPRD処置母マウスの産仔における行動試験では、反応生の亢進、自発行動量の増加あるいは触刺激に対する応答生の亢進を認めた。試験管内実験では、終板の静止膜電位の減少、運動神経伝達物質の自発性および誘発性放出量の増加を認めた。すなわち、少なくとも、自発的な機能の亢進および外来性の刺激に対する過剰応答の可能性を伝達物質の放出量の増加を通して示し得た。運動神経伝達物質の放出のCa^<2+>依存性を調べた実験では、IPRD処置した母マウスの産仔では、1素量の伝達物質の放出に要するCa^<2+>が3原子であることを示した。以上を要するに、IPRDによる母マウスの処置が妊娠の全期間におよぶ場合、その産仔に、運動神経伝達物質の放出能の変化を含めて、少なくとも運動機能に異常を生じる可能性を示した。これは、神経分化において初めて言及したIPRD感受性のCa^<2+>調節過程である。
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