動脈のみらず肺静脈まで色素が注入された成人遺体の両肺を摘出後、実体顕微鏡下にピンセットを用い少しずつ肺組織を除きながら、肺内における気管支動脈の分布と、肺内気管支静脈について検討した。 1.気管支動脈の肺外走行については、右上枝、右下枝、左上枝、左下枝の4枝が区別できることをすでに発表した(1979)。これら4枝についてはそれぞれ起始との間に、一定の関係が成立することも明らかにした。これら4枝の肺内分布において、各区域気管支との関係を調査するのが今回の目的であった。結論として、この4枝と特定の区域気管支との間に一定の関係はない。もちろん上枝は上葉、下枝は下葉に分布するけれども、ケ-スによっては上枝も中葉や下葉に分布し、下枝が上葉に分布することがある。また各区域気管支には原則として1本の気管支動脈が分布している。 2.気管支壁よりおこり、近接の肺静脈に注ぐいわゆる肺内気管支静脈が剖出された。肺内気管支静脈については、その存在はMarchand(1950)、山下(1954)により確認されていたが、その形態を実体鏡下に据えることができた。これはおよそ区域気管支より終末細気管支の領域に見出され径0.5mm以下であった。これらの所見と、教室の千葉(1989)による肺外気管支静脈の所見を考慮して、肺の循環動態について考察した。 3.ラットにおける血管注入法による発生学的所見。受精令14.5日前後までの胚では、背側大動脈の腹側位よりおこって肺に分布する枝があり、これによる肺循環系と体循環系との交通が認められた。しかし、15.5日(大動脈弓完成期)以降の胚ではこのような枝は存在せず、さらに16.5日以降の胚になると、ラット成体の気管支動脈とほぼ同様の起始(右側:最上肋間動脈、左側:内胸動脈)、走行をとる血管が認められた。これらの所見によって、気管支動脈は個体発生では比較的おそく発生することが確認された。
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